新潟地方裁判所三条支部 昭和52年(ワ)106号 判決 1979年3月27日
原告 五十嵐鉄次郎
原告 五十嵐芳乃
右両名訴訟代理人弁護士 荒井尚男
被告 安中憲一
右訴訟代理人弁護士 金田善尚
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
(一) 被告は原告五十嵐鉄次郎に対し、金五〇六万二、五七一円、原告五十嵐芳乃に対し、金四五三万九、七七〇円及び右各金員に対する昭和四九年一月一日以降完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
(三) 仮執行宣言。
二 被告
主文同旨。
第二原告らの請求原因
一 被告は昭和四六年五月二五日午後七時一〇分ころ、自己所有の自動二輪車(三条市三三四四以下「乙車」という)を運転して、三条市大字興野から、同市旭町方向に通じる市道を東方向から西方向に進行中、同市大字東裏館四一七番地先交差点において、右市道と交差する道路を、北から南に向けて進行中の訴外五十嵐文吉(以下文吉という)の運転の原動機付自転車(以下「甲車」という)に自車を衝突させ、よって同人に頭部打撲傷、両手背圧挫傷及び頭蓋底骨折の傷害を与えて同日死亡させたものである。
二(一) 被告は本件自動車を自己のために運行の用に供したものである。
(二) よって被告は自賠法三条の規定に基づき文吉の相続人(両親)である五十嵐鉄次郎(以下原告鉄次郎という)及び原告五十嵐芳乃(以下原告芳乃という)に対して、右の損害を賠償する義務を負担するに至った。
三 前記事故の結果、原告鉄次郎及び同芳乃は次の損害を被った。
(一) 文吉の傷害による損害
(1) 医療費の支出による損害
原告鉄次郎は、文吉の医療費として、金七、六三六円を支出し、同額の損害を被った。
(2) 文書の支出による損害
原告鉄次郎は、政府の保障事業に対し、損害のてん補を請求するのに必要な文書の交付手数料として、診断書三〇〇円、診療報酬明細書一、〇〇〇円、計金一、三〇〇円を支出し、同額の損害を被った。
(二) 被害者の死亡による損害
(1) 得べかりし利益の喪失による損害
被害者文吉は本件事故当時三条市大字東本成寺一、八二五番地に本店を有する訴外北陽産業株式会社に勤務し、昭和四五年における一年分の給与所得として金三五万四、八六〇円を得ていたところ、文吉と同時期に同社に入社した者の、昭和五一年度の年収が一四九万九、六〇〇円であるから、控え目に見積って昭和四五年から昇給率を一〇パーセントとして計算し、三五歳に達する昭和六四年度まで、同割合で昇給し、その後は六三歳の退職時まで昇給しないものと計算し、文吉のその期間の生活費割合を収入の五〇パーセントとしてこれを控除するとその純収益はつぎのとおりとなる。すなわち、被害者は本件事故当時満一七歳であったから、昭和四四年厚生省発表の第一二回生命表によれば、満一七歳の男子の平均余命年数は五三・〇一年であるから、文吉は、本件事故がなかったとすれば少くとも満六三歳に達するまで就労し、この間前記の収益を取得することができたはずである。従って文吉の逸失利益は前記の方式に基づいて計算しこれをホフマン式計算方法により現在一時に請求する金額に換算すると別表記載のとおり金一、六二七万四、六八七円となる。
又、訴外会社の退職金は四六年間就労すれば控え目に見積って四五〇万円を下ることはない。よって、逸失利益は右一、六二七万四、六八七円と四五〇万円との合計金二、〇七七万四、六八七円となる。よって、原告らは各自につき、その各二分の一である一、〇三八万七、三四三円づつを相続により取得する筋合となるが、本件事故は、被害者文吉の一時停止違反と被告の徐行義務違反との競合により発生したものであり、その過失割合は文吉五、被告五と認めるのが相当であるから、その損害額の五割に当る五一九万三、六七一円宛取得することになる。
(2) 葬式費用の支出による損害
原告鉄次郎は葬式費用として、
(イ) 葬儀料 五万一、四八〇円
(ロ) 会食費 一六万二、三八五円
右合計金二一万三、八六五円を支出し、同額の損害を被った。
(3) 慰藉料
(イ) 原告鉄次郎らには本件事故当時、長女晴美(事故当時二二歳以下同)、二女りゑ子(二〇歳)、被害者文吉(一七歳)、四女典子(一〇歳)と計四人の子があったが、被害者を除いてはすべて女子であり、長女、二女は本件事故当時未婚であったが、その後他家に嫁し、四女もいずれは結婚して親の許を離れることが予想され、結局被害者のみが原告らの将来を託す唯一の男子であったので、原告らは被害者を老後の柱と頼んでいたのであり、被害者は原告らにとって欠くことのできない存在であったのである。
(ロ) 従って、原告らは本件事故により、甚大な精神的打撃を受けたので、その慰藉料は本件事故の態様、過失割合を考慮に入れると各六〇万円が相当である。
(4) 弁護士費用金三〇万円
原告鉄次郎は本訴の提起と追行を新潟県弁護士会所属弁護士荒井尚男に委任し、これが印紙代、郵券代、弁護士費用として金三〇万円を支払った。
以上を合計すると原告鉄次郎につき金六三一万六、四七二円、原告芳乃につき金五七九万三、六七一円となる。
四 ところで、乙車には自賠法に基づく、保険契約が締結されていなかったため、原告らの委任に基づく代理人日産火災海上株式会社は訴外国(所管庁運輸省自動車局)に対し、自賠法七二条一項の規定に基づき、損害てん補金を請求したので、訴外国は原告らに対し、昭和四八年九月二〇日金二五〇万七、八〇二円を支払った。
五 よって、原告鉄次郎は被告に対し、前記損害賠償合計六三一万六、四七二円より、右損害てん補金の二分の一である一二五万三、九〇一円を控除した残金五〇六万二、五七一円、原告芳乃は被告に対し、前記損害賠償合計五七九万三、六七一円より、右損害てん補金の二分の一である一二五万三、九〇一円を控除した残金四五三万九、七七〇円及び右各金員に対する本件交通事故発生後である昭和四九年一月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三請求原因に対する被告の答弁
一 請求原因第一項認める。ただし、後述のとおり甲車が乙車に衝突して来たものである。
二 同二の(一)は認める。同二の(二)のうち、原告らが訴外文吉の相続人(両親)であることは認めるが、その余は争う。
三 同第三項(1)乃至(3)争う。同(4)のうち、原告らが本訴の提起を新潟県弁護士会所属弁護士荒井尚男に委任したことは認めるが、その余は争う。原告らは本訴において昭和四五年から昭和五一年までの昇給率を基準として将来の昇給及び退職金を見込んだ損害を請求しているが右期間は日本経済の急激な成長発展期及び所謂昭和四九年の石油ショックによるインフレに伴う物価上昇に基くべースアップも含むものであることは公知の事実であり、原告の請求は失当である。死者の逸失利益は死亡のときを基準に算定すべきである。
四 同第四項認める。
五 同第五項争う。
第四被告の抗弁
一 本件事故は昭和四六年五月二五日発生し同日被害者である五十嵐文吉が死亡したものなるところ、原告らは同日損害及び加害者を知ったもので昭和五一年五月二四日の経過により消滅時効が完成したので原告らの請求は理由がない。
二 さらに又本件事故現場の交差点は交通整理が行われておらず訴外五十嵐文吉の進行せる道路には一時停止の標識がありかつ被告は道路交通法第三六条第一項第一号の左方車両として優先権があるところ、右文吉は飲酒のうえ一時停止もせず速い速度で右交差点に進入して来て交差点中央部において徐行して進行している被告車に衝突して本件事故になったものであって本件事故は右文吉の一方的過失に基因し被告に何等過失がなく、かつ被告車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったもので被告に責任がないか少くとも右のとおり文吉の過失が重大で過失相殺されるべきである(因に被告は刑事上の処分を受けていない。)。
すなわち、
(一) 本件において衝突地点は別紙の交通事故現場図の点でこの点は被告が衝突の直前ブレーキを踏んで止った瞬間衝突した地点でスリップ痕約一〇センチメートルがあったもので衝突箇所は被告車の前輪の後部附近に被害車の前輪の先端が衝突したものである。
被告は時速三〇キロメートル位で進行して来たが本件交差点に入るに際し時速一五キロメートル以下に減速し交差点に入った所衝突する三・八メートル手前で被害者を発見し急停車の措置をとったが前記のとおり衝突したものである。被告が減速した速度が一五キロメートル以下であることは前記スリップ痕の長さ及び時速一五キロメートルの秒速が四・一七メートルであることからもこれを裏付けることができる。
被害車の速度は被告車の速度に比べ遙かに速いものであった。このことは被告も既に述べているところであるが、右別紙図面で明らかなとおり互に相手を発見出来る状態から衝突地点迄の距離が被害者の方が長いこと、衝突後被害者が六・七メートルも遠く倒れていることからも明らかである。
右の各事情から本件交差点には被告車が先に入っていたものである。要するに本件は被告車の進行道路は被害者の進行道路よりやや狭いものの明らかに被害者の進行道路が広い道路とは言えない交差点において被告車が徐行乃至はそれに近い低速度で先に入って進行中被害者が可成り速い速度で一時停止義務に違反して右交差点に進入して被告車に衝突して来た事案である。
(二) 右の場合の過失割合は、〇乃至一〇パーセントとなる(被告車が徐行したと見れば〇、減速をしたが徐行しなかったと見れば一〇パーセント)。
以上のとおり本件につき、かりに被告に過失があるとしてもその割合は一〇パーセント以下である。
(三) 被告は自賠法第七二条に基づき本件事故の全損害金の支払を請求し過失相殺後本件事故の全損害の支払を受けている。
当時は右七二条に因る請求の場合最高限度五〇〇万円であるが、原告らの全損害はこれに満たないとして二五〇万七、八〇二円の支払をなし原告らも全損害として二五〇万七、八〇二円の受領をしている。
また、原告らは昭和五一年四月一四日御庁昭和五一年(ワ)第一八号事件につき同事件原告から訴訟告知を受け全損害額も了知しその弁済を受けたものとしてそのままにしていたものである。さらに本件事故に因る損害額につき、裁判所の認定も二五五万五、八〇〇円である。
第五被告の抗弁に対する原告の答弁
一 消滅時効の抗弁は否認する。
民法七二四条の「損害及び加害者を知りたる時」とは単に損害や加害者を知っただけでは足りず、「違法行為」としてその者に対し法律上の賠償請求が可能だと気付いたときであるとするのが、通説判例である。要するに具体的に賠償の請求をしようと思えばいつでもできるような程度に事情が理解されたときからである。
ところで、訴外国が被告に対し、本件交通事故につき、原告らが被告に対して有する損害賠償請求権を自賠法七六条一項に基づき、国が原告らに支払った給付額二五〇万七、八〇二円を限度として、新潟地方裁判所三条支部に損害賠償請求の訴(同庁昭和五一年(ワ)第一八号事件)を提起したのは昭和五一年三月一二日で、その訴訟告知が原告らになされたのは同年四月一二日であるから、原告らが法律上賠償請求が可能だと理解したときは同年四月一二日であり、時効はこのときから進行するものである。また、人身事故については、損害自体の解釈に争があり、事故による死傷そのものを損害とする考え方と死傷のため被った逸失利益、治療費の支出や、精神的苦痛を損害とする考え方とがあるが、最近の判例の趨勢はもとより後者で、最判昭四二・七・一八の判決においても、費用支出時説をとり、そのときから、消滅時効が進行するものとしているのである。
原告らは本訴において、弁護士費用をも請求しているのであるが、その時効起算点は、本訴提起を弁護士に委任したときが、民法七二四条にいう「損害を知りたる時」に当る。
二 被告の抗弁第二項は争う。この点に関する原告の主張は前記昭和五一年(ワ)第一八号事件の国の主張と同一である。
すなわち、被害者が一時停止しなかった事実は認め、飲酒運転は否認する。被害者は当日勤務を終えて、帰宅直後父の頼みで家業の製品の荷鉤を、受注先の木工屋に届けその帰途本件事故にあったものであるが、その当時飲酒の事実は全くなく、また、本件事故の検分において、そのような所見がなされた事実もない。
また、被害者は本件交差点を通ることは滅多になかったため、その状況に暗かったものである。
本件交差点は、交通整理の行われていない交差点であり、別紙見取図からも明らかなように、交差するいずれの道路もその幅員が狭く、かつ、本件交差点の乙車の進行方向からみて右側手前の角には、高さ一・七五メートルのブロック塀が、張りめぐらされていて交差点まで進入しなければ、交差道路の右方については、全く見とおしのきかない状況にあったものである。
そして、本件事故は被害者の過失はともかく、被告の徐行義務違反によって発生したものである。すなわち、昭和四六年六月二日法律第九八号による改正前の道路交通法(以下「法」という。)四二条によれば、車両等は交通整理の行われていない交差点で左右の見とおしのきかないものに進入する場合は徐行しなければならないとされているところであり、しかして徐行とは、車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう(法二条一項二〇号)ものである。
そして、具体的に、どの程度の速度をもって徐行というべきかは「当該道路の広狭、見とおしの難易、当該車両の種類、交通量の多寡等諸般の状況に応じ、停止の措置をとった場合、停止するまでの制動距離を進行しても、なおかつ事故の発生を避け得られる程度の速度をいう。」ものというべきである。
しかるに被告が本件事故時、本件交差点に進入する際の速度は、時速二〇キロメートルであったのであるから、右速度は、右の程度をはるかに超える速度であったというべきであって、被告に徐行義務違反のあったことは明らかである。
そして、被告が本件事故により、運転免許停止六〇日の行政処分を受けたことは、被告の右過失の存在を裏付けるものというべきである。
なお、文吉と被告の過失割合は、訴状記載のとおり文吉五対被告五と認めるのが相当である。
第六原告らの再抗弁
一 交通事故においては、損害賠償の一部の支払いは損害賠償債務の全部についての承認となり、そのときから時効中断の効力を認めるべきであるとするのが判例であるから、被告は前記昭和五一年(ワ)第一八号事件の判決言渡のあった昭和五二年中には本件交通事故による損害の一部を支払ったことは明らかであり、これにより消滅時効は中断されている。
二 原告らは訴外国に対し、自賠法七二条一項の請求をするとともに、被告に対し、口頭もしくは書面で昭和五一年暮ころまで、再三示談にくるように申入れたが、被告は二万円の香典と果物籠一個のみをよこしただけで、自らは返事もよこさず、義兄の高畑利夫が被告が退院した後話合の上で精一杯のことをさせてもらうというので、その言を信じ、話合による解決が可能なものと思い、事故後三年を経過したものである。
そして、昭和五一年四月一二日国より被告に対する損害賠償請求訴訟が提起された旨の訴訟告知があり、法律上損害賠償請求可能ということが判明したので、右訴訟の判決後本訴を提起したものである。そして、誠意をもって円満に話し合いたい旨の申出は、金額未確定な段階であるけれども、自己が賠償債務を負う旨の債務承認となることは明らかである。
よって、いずれにしても時効中断の効力を生じているから、消滅時効は完成しておらない。
第七再抗弁に対する被告の答弁
再抗弁第一項中国が被告に対し原告ら主張の訴をその主張の頃提起したこと、被告が右判決により命ぜられた金員の支払をしたことは認めるがその余は争う。
不法行為による損害賠償請求権の時効は被害者が損害及び加害者を知った時から進行するところ、原告らは本件事故発生の日である昭和四六年五月二五日に原告が本件交通事故を起し文吉がそのため死亡したことを知ったのであるから当日原告らは被告の違法行為によって損害の発生した事実を知ったものというべく時効の進行は同日から開始するものである。
また、原告らは被告が損害賠償の一部の支払をしたから損害賠償債務の全部について承認があった旨主張する。
ところで、民法第一四七条の承認とは時効の利益を受ける当事者が時効によって権利を喪失する者に対しその権利が存在することを知っている旨を表示することであるが、被告は原告らに対しそのような表示をしたことはない。被告が国に対し前記判決に基く金員の支払をしたとしてもこれは判決に基く支払であり、原告らに対する承認とはなり得ないし、被告は前記訴訟においても責任の存否を争っているものであり、時効中断の事由たる承認があった旨の原告らの主張は理由がない。
原告らは違法行為としてその者に対し法律上の賠償請求が可能だと気付いた時から時効の進行が開始する旨主張し、被告はその見解を争うものであるが、かりにそうだとしても原告らは右事故後間もない昭和四六年七月一二日自賠法第七二条の請求をし、また、被告に対しても事故後間もなく口頭で損害の請求をし、さらに昭和四七年一二月二九日消印のある文書等で請求しているのであり、これらの点から見ても原告らは右文吉の死亡を知った時既に被告に対し損害賠償請求が可能だと思っていたものと考えられるし、現に原告鉄次郎は当公廷で同人も同人の妻も事故発生の時から被告に対し損害賠償請求権があるとずっと思っていた旨述べている。
原告らは自賠法第七二条に基き損害の一部の支払を受けたので債務の承認があったとか、被告が親類の者を通じ賠償につき誠意をもって円満に話し合いたいと申出をしたから債務の承認があった旨主張するが、被告が債務を承認した事実のないことは既に述べたとおりである。
被告は、被告の方こそ被害者で損害賠償を請求したいという気持もあったが、相手は亡くなっているし自分も自賠責保険に加入していないこともあったので敢て損害賠償を請求することはしなかったが、相手方に対し損害賠償をする等ということは全く考えていなかったものである。
原告らから前記のとおり損害金の請求をされたのに対してもこれを支払う意思のないことを明確に回答しているのであり、自分自身は勿論親類の者を通じても円満に話合いたい等申出たこと等全くない。
第八証拠《省略》
理由
一 本件事故発生および被告の運行供用者
原告らの請求原因一および二・(一)の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件不法行為の時効の成否
(一)1 《証拠省略》を総合するとつぎの事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》
本件事故発生後原告らは被告に対し、一・二回書面で請求した(最終回・昭和四七年一二月二八日)が、あくまで示談で解決しようと考え、右昭和四七年一二月二八日以降被告に何らの請求をしなかった。他方、被告は、本件事故につき、当初から終始一貫して自己に支払義務がないと主張し続け、原告らに対しても前記書面による請求に対してもその後拒否する趣旨の書面を送付していた。
2 以上の事実によれば、原告らは、遅くとも昭和四七年一二月二八日の時点では本件事故による加害者および損害を知ったものと認めるのが相当である。
3 原告は、本件につき、訴外国と被告間の損害賠償請求事件の訴訟告知のときである昭和五一年四月一二日が、原告らの時効起算点である旨主張するが、右認定のとおり原告らはすでに加害者および損害(予見可能な程度)を知っていたものであり、右主張は失当である。
また、原告は、本件で弁護士費用を請求しているので、この点は本訴提起の時点が時効の起算点であるというが、当裁判所は弁護士費用は、事故と相当因果関係ありと認められたときに発生するもので、当初の損害を知りたるときに当然予見しえたものであって、それ独自に時効の起算点となるものではないと解するので、この点の主張も失当である。
(二) 中断の有無
1 被告が原告主張の前掲訴外国と被告との間の確定判決にしたがって、国に対し、金員を支払ったことは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、右判決の内容は、本件事故による損害につき、訴外国が被告に代って、自動車損害賠償保険法に基づきてん補した金員の支払を命じたものであることが認められる。
右事実は、被告が訴外国に支払ったもので、被告が原告らに本件損害の一部の支払いをしたものではなく、原告らのこの点の主張は理由がない。
2 《証拠省略》によれば、本件事故後被告の親戚である訴外高畑利夫が原告らに対し本件につき、話合いを求めた事実を認めることができる。しかし、《証拠省略》によれば、被告は右高畑に本件損害賠償の支払いにつき、委任した事実はなく、右訴外高畑の行為は独自の行動と推認せざるをえない。
したがって、右事実をもって、被告の本件債務の承認ということはできない。
(三) ところで、本件原告らの訴提起による被告に対する訴状の送達は昭和五二年九月一六日であるから、本訴請求は、昭和五〇年一二月二七日をもって時効により消滅しているものと断ぜざるをえない。
三 結論
以上認定のとおり、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、すべて理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 戸田初雄)
<以下省略>